俺たちテニス部は、妙に女子からの注目を浴びている。・・・・・・有り難いけどね。
正レギュラーから外れてしまった俺はかなり落ち着いた方だけれど、トップの跡部なんかは、優に一クラスの人数は超してるんじゃないか、っていうぐらいの声援が送られている。
そして、次のトップを呼ぶ声も、以前に比べて随分と多くなった。



「・・・・・・はぁ。」



そんな彼女たちを見て、小さく息を吐いたマネージャーに俺は気付いてしまった。



ちゃん、お疲れ様。」

「あ、わっ!滝先輩!お疲れ様です。」

「日吉のこと、心配?」

「い、いえ、その・・・・・・私、そんなにわかりやすかったですか?」

「いや。たまたま俺も、日吉への声援が増えたなーって思ってたところに、ちゃんが見えたから。もしかしたら、って思っただけだよ。」

「そうですか・・・・・・。駄目ですね、私。部活に集中しないと。」

「いいんじゃない?彼女なんだし。彼氏のことが心配になるのは当然だよ。」



苦笑いを浮かべているちゃんは、見ての通り、真面目で。
次期部長を任せられているほどだから、当然、日吉も真面目で。
真面目同士のカップルは、やっぱり付き合い方も真面目で。
付き合う前と比べて変わったところと言えば、二人の間を流れる空気感とか、少し一緒にいる時間が増えたかなとか、どれも曖昧なことばかり。
それ故に、隠すつもりは無いんだろうけど、二人の仲を知る人は限られている。



「心配・・・・・・しているわけでもないんですけどね。日吉のことだから、浮気とかも無いですし。」

「でも、いい気分ではないよね?」

「・・・・・・そうですね。やっぱり・・・・・・嫉妬しちゃいますね。あまり良くないとは思ってるんですけど。」

「どうして?」

「だって、誰も悪くないじゃないですか。だから、こんな醜い感情持つべきじゃない、って思うんですけど・・・・・・勝手に出てきちゃって・・・・・・。」

「じゃあ、例えば、逆の立場を考えてみようよ。」

「逆の立場、ですか?」

「そう。例えば、ちゃんが他の男と仲良くしている。それを見た日吉は、何だかイライラする。・・・・・・そんな話を聞いて、ちゃんは日吉に対して『醜い感情を持つべきじゃない』って思う?」

「・・・・・・いえ、思わないです。」

「それどころか?」

「それどころか・・・・・・嬉しいです。」

「だよね?だったら、日吉も同じように思ってくれるよ。だから、気にしすぎない方がいいんじゃない?」

「・・・・・・はい。」

「日吉が同じ考えを持つかはわからないけど、参考までに言っておくと。俺はちゃんと同じように思うよ?」

「ありがとうございます。・・・・・・そうですね、気にしたって、我慢できるものでもないですしね。」

「何なら、今の話を日吉にもしてみて、確認してこようか?」

「そ、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですっ!!」

「そう?残念だなー。」

「もう・・・・・・滝先輩、からかわないでくださいよ。」



やっと笑顔になって、ちゃんはマネージャー業に戻っていった。
・・・・・・部活への集中を切らせたのは、日吉のことが原因じゃなく、俺の所為とも言えるか。ごめんね、ちゃん。

一方で、応援される俺たち部員も、普通の男子中学生だ。鬱陶しく感じる奴も中にはいるだろうけど、大抵は喜んでるんじゃないかな。
ましてや、部内で直接支えてくれる存在には、特別な思いも抱きやすい。



「ちっ・・・・・・。」



そんな彼らを見て、小さく舌打ちをした次期部長に俺は気付いた。



ちゃんのことが心配?」

「・・・・・・心配じゃない、なんてことがあるんですか?」

「たしかに。俺が日吉の立場なら、『彼女は俺のものだ』って公言したくなるね。」

「それは・・・・・・失礼ですけど、みっともなくないですか?」

「日吉はそう思うんだ?」

「はい。滝さんがしていても、自分がしていても、情けなく見えます。」

「じゃあ、例えば、ちゃんだったら?」

が・・・・・・?」

「そう。例えば、女の子に囲まれている日吉を見て、ちゃんが『日吉は私のものです』って言ってたら、どう思う?」

「・・・・・・・・・・・・可愛いと思います。」

「だったら、ちゃんからしても、日吉がそう言ってくれたら嬉しいんじゃない?」

「・・・・・・たとえ、そうだとしても、俺が自分を情けなく思うことには変わりないので。」

ちゃんには格好良いところだけを見せたい、ってとこかな。」

「・・・・・・ええ、まあ。」

「やるねー。でも、それはそれで、ちゃんも喜びそうだね。何なら、今の話をちゃんにもしてみて、俺が確認・・・・・・。」

「結構です。」



あ・・・・・・。
俺の話の途中で、日吉は更に仏頂面になって、部活に戻った。
余計なお世話だったか。悪いね、日吉。

でも、俺はそんな二人を見てるのが好きなんだよね。



「忍足。ラブロマンスっていいね。」

「急にどないしたんや?」



休憩中、たまたま近くにいた忍足にそう言ってみた。



「仲の良い恋人たちが思ってることを、俺らは客観的に見れるわけじゃない?そういうところが楽しいよね。」

「そやなー。・・・・・・って、何か、最近いい映画でも見つけたんか?滝のオススメやったら、俺も興味あるわー。」

「ふふ、そうだね。とても身近な話だよ。」



身近な話だから応援したい気持ちが強くて、より楽しく感じるんだろうな。
そんなことを忍足に話してみたら、きっと大きく頷いてくれるに違いない。
・・・・・・でも、まあ、またちゃんと日吉に「そこまでしてもらわなくて」「結構です」って言われちゃうか。













 

滝視点の日吉夢です!珍しいですね。
今回、書きたかったのは、“日吉カップルの嫉妬を第三者視点で”ってところだったので、上手い具合に日吉くんたちと絡めそうなのが滝さんかな〜と。

あと、滝さんと忍足さんの何気ない会話も書きたかったんですよ。
忍足さんは関西弁で私が書きやすいので、普段はついボケやツッコミで喋らせ過ぎちゃうんですね(笑)。なので、今回のように滝さんがメインで、ちょこっと忍足さんを挟む、ってな感じも書けて良かったです♪この二人の落ち着いた雰囲気、良いですよね〜。

('15/01/15)